先日メモ帳に↑のラクガキをアップしたところ瀬瑠さんから素敵山スクをいただきました!




ひとつ、ひとつ、シャツのボタンが外されている、ようだ。


 視えては居ない。ベッドの上、自分を抱える様な格好で背後に座る男の右手が、自分の視界を塞いでいる。
 日付が変わって数時間、月の無い夜。完全に光を奪う事が目的では無い様だが、間接照明しか点いていない部屋は元々仄暗く、瞼を開けていても閉じていても、視界は然程変わりの無いノイズ混じりの黒。
 こうしてベッドの上に居るのも合意の上であるし、此れから先にする事も有り体に言えば一つしか無い訳で、抵抗する気は無く、最初は突然の行動に不意をつかれ「何のつもりだ」と荒げかけた抗議の言葉は飲み込んで黙って身を預けていた。


 背後から左手だけで器用にシャツのボタンを外したらしい山本の手が直接肌の上を滑る。胸から脇腹へ、多分、数えきれない古傷のどれかを辿って。
 言葉は無い。視覚を奪われた所為で触覚と聴覚が鋭敏になっているのが手に取るように解る。一般人より気配に聡く、感覚が鋭いというのは、こういう時不利なのかもしれない。
 未だ密やかな呼吸と衣擦れ、頭ごと抱える様にして視界を奪う山本の右手と、左手の指先が残す温度。
 倒錯的だ。
 そう思った。こういった趣向を持っている風には一見みえない男。ごく普通の健康的な行為しか知らない様な───。
 其処まで考えてから「いや、倒錯的などでは無く、山本にとってはこれが真理か」と思い直して小さく噴き出した。人殺しで、しかも同性の自分を腕の中に囲っている時点で、全く以て"普通"からは程遠いと言う事に気付いたからだ。
「…なに?」
「……なんでも無ぇ」
 囁かれた疑問の声に、少し笑ってそう返した。山本も真剣に聞き出す気は無い様で、くすくすと耳元で笑う。その声に思わずぴくりと背筋を震わせて反応すると、緩慢な愛撫を繰り返していた左手が自分の左肩を掴み、引き寄せられたと思ったら今度は首筋に唇が落とされた。
「…っ」
 肩口を軽く食んで、舌先が鎖骨から脈を辿る。わざと音を立て耳の下辺りに吸い付かれて思わず息を呑み、小さく喘ぐ。
「ふッ、…ア」
 瞼の裏で明滅するノイズが一瞬だけ明るく弾け、呼吸が徐々に熱を孕む。


 視界を塞いだまま続けられるこの行動は、山本が何処か意識の奥底で望みながら、実際には果たさない願望の代替行為なのだろうか。ふとそう思えば、与えられる刺激が引き起こす快感が増々強くなった、気がした。
 その意識を、世界全てを掌握する事は互いに不可能で。だからこうして、いや、せめてこんな時は、感覚の全てを奪い奪われる様な時間を。


 嗚呼、そうか。自分達は、剣を合わせる事と身体を重ねる事、どちらかしか、互いが互いの物になれる瞬間が無いのか。


 妙に納得出来た。結局は似た者同士、と言える部分があるのかもしれない。涌き上がる想いと共に、スクアーロは右手で自身を抱く男の腕を掴んで、ちゃんとしたキスをせがんだ。


 それは、月の無い夜の事。


ラクガキでまさかこんな山スク拝めるとは!ありがとうございました瀬瑠さん…!!

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